雇用の8割が重度の知的障がい者、社内戦力化へ向けた動き方

雇用の8割が重度の知的障がい者、社内戦力化へ向けた動き方

厚生労働大臣より「障害者雇用優良中小事業主認定制度(もにす認定制度)」に認定された株式会社ビジネスプラス。雇用している8割が重度の知的障がい者です。どのような動きを通じて戦力化に至ったのか。業務の切り出し方や定着支援、雇用を進めるうえでの工夫点について、障がい者雇用の採用を担当している白賀さん、梅本さんにインタビューしました。

株式会社ビジネスプラス
取締役
白賀克己氏

1987年7月に株式会社もしもしホットライン(現りらいあコミュニケーションズ株式会社)に営業職として入社。オペレーション統括部長、関西支社首都圏エリア統括部長を担当後、2017年4月に株式会社ビジネスプラスに出向、取締役に就任し、現在に至る。(2022年8月末退任)

株式会社ビジネスプラス
新宿南グループ グループ統括
梅本隆也氏

1999年5月、株式会社もしもしホットライン(現りらいあコミュニケーションズ株式会社)の電話オペレーターとして入社後、コールセンターのスーパーバイザー(管理者)としてオペレーション管理業務を行う。退社後、2006年1月にビジネスプラスへ入社。知的障がい者雇用促進を目的とした新宿南グループ設立に参画し、同グループ統括として現在に至る。

ー本日はありがとうございます。まずはじめに特例子会社の事業や、障がい者スタッフに任せている仕事内容を教えて下さい。

「株式会社ビジネスプラス」は、コールセンターや事務業務などバックオフィスの受託事業を展開している「りらいあコミュニケーションズ株式会社」の特例子会社として、
2002年12月に設立されました。その後、2021年11月に厚生労働大臣より「障害者雇用優良中小事業主基準適合事業主」(通称:もにす認定制度)」として認定されました。

障がい者の従業員数は現在203名です。8割方が重度の方なので、1人で2人分のカウントになっています。障がいの割合としては、知的障害の方が180名ほど、全体の約9割を占めています。(2022年6月1日現在)
もともとは身体障がい者の採用からスタートしましたが、身体障がい者の方だけではなく、もっと多くの障がい者の方に活躍する機会を提供したいと考え、知的障がい者の方も採用する方針へ変更しました。業務種類については、2005年から開始した清掃や喫茶店がメインです。府中本社では、親会社のホームページや社内イントラネットの改変作業、自動車通勤管理といった事務業務があります。

2006年からは、免許証や車検証、任意民意保険など期限が切れる前に更新手続きを行うような期限管理から、名刺や入館証の制作も任せています。

ー清掃や喫茶店だけでなく、幅広い業務を任せていらっしゃるんですね。現在の採用状況はいかがでしょうか。

採用は各拠点によって異なりますが、新宿では業務と人の割合の関係上、現在は欠員募集という形でしか募集はしていません。ありがたいことに10年以上働く方が大半で、欠員は中々出ていない状況です。新しい風を入れるためにも新規で募集したいと考えています。

ー10年以上の勤続は素晴らしいことですね。定着支援で工夫している点はございますか?

1つ目に、各作業に必ず管理者を配置することです。作業面に関してはすべて管理者が中心となり、働きかけています。2つ目に、障がい者スタッフに入社していただく際の約束事として、地域の職業就労支援センターに所属をしていただくことです。細かなことは就労支援センターと必ず情報共有しています。例えば、会社で起きた出来ごとや、家庭での様子がおかしいといったことですね。

お互いが情報共有を行うことで、その日の体調や気分の落ち込みなどで業務に影響がでないよう事前に防ぐことができます。会社で対応できることは会社で行い、ご家庭や支援センターの方で対応していただけることと分けながら支援しています。

ー次に、業務の切り出しについて工夫していることがあれば教えて下さい。

業務の切り出しは、基本的に本社側の人間が働きかけています。できる業務があるのか、社内の従業員に声掛けを行うなど動いています。最近では、親会社からも個別に依頼を受けたりします。相談ベースで依頼していただくことも多いので、耳を傾け、できることは引き受けるようにしています。そのおかげで、他の事業部を紹介してくださることも増えました。

業務をたくさん切り出してもらうためにも、職場への挨拶を徹底しました。コミュニケーションを積極的に取っていくイメージです。喫茶店も清掃業務も含め、「おはようございます」や「お疲れさまです」といった挨拶をすることで、障がい者スタッフが働いていることを認識していただけるのかなと。仕事で結果を出すと、見え方も必然的に変わってくると思うので、清掃や紙すき、シュレッダーといった、よく目につくような場所の業務は、よりきちっとこなしてもらうようにしました。

ー認知してもらうことは大切な取り組みですね。障がい者スタッフ採用の基準はどのように設けているのでしょうか。

弊社では支援機関と定期的に取引しているため、支援機関にお声がけすると弊社に合いそうな方をご紹介していただいています。

選考については、はじめに職場の見学にきてもらい、問題がなければ実習にきていただきます。本人が働いてみたいとの要望があれば面接の時間を設け、通常の採用と同じ面接を行います。その後3ヶ月間のトライアルを実施し、問題がなければ正規雇用です。

ただ、面接だけで決まるわけではありません。実習に時間通りに1人で来ているか、仲間の人と共同で作業ができるかを重点的に見ていますね。

ー援助者の方が障がいを理解するために行っている取り組みがあれば教えて下さい。

援助者には、「障害者職業生活相談員認定講習」を受講していただいてます。当社で働いている援助者の大半が、障がい者の指導や援助が未経験の方です。障がい者にはどのような種別や特性があるのか、どのような点に気を付ければいいかといった知識がない中、この講習は2日間でインプットできるため、全員に受講してもらうようにしています。

講習だけでなく、入社時に研修も行っています。知的障がい者に対しての伝え方や、資料の作成方法についての研修です。個々の特性が分からなければ、上手く伝えることは非常に困難です。実際に障がいのある方と関わることが一番の研修になると思っているので、積極的にコミュニケーションを取ってもらうようにしています。

ーありがとうございます。障がい者雇用をすすめる上での苦労はありましたか?

専門的な知識と会社から受けている業務をマッチングさせるときは、特に注意をしています。一人ひとりの障がい特性は全くもって違うので教科書通りに物事を受け取り過ぎてしまうと、思うように動けなくなってしまうからです。

そのために行った工夫ですが、1つ目は、一人ひとりコミュニケーションの形を変えながら取ることです。この人は、この伝え方では伝わらないけど図にすると分かってもらえる。といったイメージです。一般的に、「図にしたほうがいい」とか「手順を細かくしたほうがいい」といった話もありますが、それは人によって全然違うものなのかなと。

2つ目は、「挑戦できる機会があれば、チャレンジしてもらう」こと。これは、雇用をはじめたときから変わっていません。ですが、これは失敗が前提です。スーパーバイザー(援助者)に関しても「なぜできないのか」ではなく、「できないからこそやらせてみる」という考え方を持って仕事を任せています。

ー最後となりますが、これから障がい者雇用を始める方へのメッセージをお願いします。

まずは雇ってみることが大事です。障がい者雇用の壁もそうですが、障がい者との接し方の壁は、意外と相手が作っているようにみえて、自分たちが障がいという壁を作っているのかなと。積極的に雇用し、一緒に動いてみることで変わってくることもあります。長い目でみたら必ず戦力になってくれます。

今では当社がなければ「親会社は回らなかったのでは……?」と、思うくらい欠かせない存在までこぎつけたかなと嬉しく思います。今後も、健常者従業員がやりたい仕事に対して工数が足りなかったり、自分たちではできなかったりする作業に関して、障がい者スタッフにお願いできないかを気軽に相談してもらえたら嬉しいです。

ワークリアとは

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