障がい者スタッフのホスピタリティを強みに、社内のファンを作る

障がい者スタッフのホスピタリティを強みに、社内のファンを作る

障がいのあるなしに関わらず、働く意欲のある人がより大きな貢献ができるように、理念に基づいた行動規範を日々のオペレーションに組み込み、互いの可能性を引き出す風土・文化づくりを行う湘南ゼミナールオーシャン。雇用をはじめた当初の話や苦労について、障がい者雇用の担当をしている前山さん・坂井さんにインタビューしました。

前山さん

2013年より障がい者雇用の現場責任者として、精神・発達障がい者がイキイキ働く現場づくりに取り組む。学生時代から学習塾の設立に参画、2010年まで事業運営全般に携わり、アパートの1室から生徒数3.7万人、30年連続成長への基盤を築く。

坂井さん

前職で様々な部署間を繋げていた経験から「障がいや性差に関わらず人と人とを繋げていきながら社会貢献をしたい」と、2017年に湘南ゼミナールオーシャンへ転職。現在は主に広報運営として写真撮影や動画制作、社内業務支援などを行いながら外部と従業員とを繋げる役割を行っている。

まずはじめに、湘南ゼミナールオーシャンについて教えて下さい。

湘南ゼミナールオーシャンは、精神・発達障がいに特化した特例子会社です。当社は様々な業務に対応しており、経理補助や封入・発送業務、データ入力、文書のPDF化作業、名刺作成、動画作成、マニュアル作成、システム作成などを主に親会社から請け負っています。当社の従業員の障がい区分としては、精神障がいの方を多く雇用しています。

身体・知的障がい者に比べて、精神・発達障がい者の雇用は遅れており、社会的に見てもなかなか進んでないのでそこに焦点を当てました。また、身体障がいや知的障がいの優秀な人材はすぐに採用されてしまう傾向があったのも理由のひとつです。

実際に雇用を行う上で、どのようなことから始めたか教えて下さい。

まず1つ目に、親会社から湘南ゼミナールオーシャンに業務を切り出して頂けるよう、ファンを作ることをはじめました。精神・発達障がい障がい者従業員の特徴として、他の人にどう見られているかとても気にかかったりします。これは、裏を返すと人の気持ちを読み取ろうとする力が強いということです。もちろん少し過敏になりがちですが、ホスピタリティはかなり強く発揮されると思っています。それを逆手に取り、名刺などに手書きのメッセージを添えるといったことをやってもらいました。

加えて、「丁寧さ」も彼らの強みです。彼らはかなり慎重で、ひとつひとつの作業が丁寧で細やかなので、梱包作業もきれいに行ってくれます。そうすると、名刺が送られてくるだけなのに、丁寧な梱包がされていて、個別の手書きメッセージと相まって一般社員も期待以上のこととして喜んでくれるんですね。些細なことが、社内のファンを作ることに繋がると思っているので、今でも続けています。

2つ目に、正確性を極めることです。親会社はスピード重視で、時にどうしても仕事が粗くなることもあり、それに対して差別化ができると思いました。そのあとは、実際に彼らと一緒に働き始めて、彼らを観察するところからはじめました。過集中で顔が真っ赤になってしまったり、欠勤が多かったり。会社に来たものの、ずーっと寝てる人がいたりと、当初は大変でした。そのときは、支援機関の方と都度連絡を取り、解決に向けて行動を起こしていった感じです。

他には、当時切り出す業務がほとんど無かったので、本人たちと対話することを徹底的に行いました。集団に対するコーチングです。例えば、働くことや働いて得られるものについて話すイメージですね。そういった所で、少しずつ話しを掘り下げていき、そのうち仕事を通じて仲間が出来たり、人の役に立つことに気づいていく。このようなことを振り返り確認していくことは、なかなか時間が取れずにできなかったりするので、今思えば初期の頃は仕事が少なくてよかったなと思っています。

実際に雇用を行ったうえで、苦労した部分とその乗り越え方を教えて下さい。

一番最初に問題になったのは、「定着」のなかでも「体調面」です。「体調面」の悩みと向き合い、企業でできることの限界を感じました。そこで、相談先を複数持ち、それぞれの役割を伝えて線引きを行いました。「体調」が悪いときは、医療機関に相談。「生活面」なら、家族や地域の支援センターなど。「仕事・職場」に関してはもちろん相談を受け付けますし、「定着支援機関」を頼るようなルートも立てています。

そして、企業でできる体調面の乗り越え方としては、「セルフケア」教育と実践です。私たちが面倒を見ようとする限り、私の経験では上手くいきません。支援員に依存的になってしまう部分も出てくるので、自分自身の整え方を身につける方法を考えてもらっています。時期や程度にもよりますが、基本は自分自身で考えていくべきだと思っています。お医者さんに治してもらい自分は何もしなくていいと依存的に考えている人もいらっしゃいますが、自律的に日常の生活リズムや、セルフケアを意識して取り組んでほしくこの取組を入れたのも理由のひとつです。

また、障がいのある方向けの就労定着に役立つセルフケアプログラム【K-STEP】をセルフケア力をつけるツールとして駆使しました。【K-STEP】を選んだ理由の1つ目は、使い方が自由にカスタマイズできる点です。2つ目は「紙」である点です。他にも凄くいいツールはありましたが、使い方が難しいとそっちに気を取られてしまうので……。こっちが大変そうに動いていると間違いなく彼らにも伝わってしまいます。自分たちにとっても使い勝手がいいツールを利用したいと思い、使用しています。

<参考>
K-stepの概要のページ
K-step紹介動画のページ(動画は湘南ゼミナールオーシャンが制作・出演しております。)

実際に雇用を行ったうえで、苦労した部分とその乗り越え方を教えて下さい。の画像

 

雇用してよかった点を教えて下さい。

大きく分けて2つあります。1つ目に「ワークシェアがうまくいっていること」です。私たちが業務を請け負うことで、親会社はより効果的な業務に集中できています。また、ワークシェアをするには、依頼する側が業務のことをよく理解していないといけません。無意識に行っている手順などを意識化にあげて、誰でも分かるように仕事を見える化、していきます。「どこの業務を、どの状態で、切り出すことができるのか」がわかることで、業務の可視化にも繋がり、私たちへの依頼に限らず業務全体の標準化や手順の明確化が進み、生産性の向上に寄与しているのではと捉えています。

2つ目は「ダイバーシティ&インクルージョン」です。ご存じの通り、目に見えない価値観や文化レベルでの多様性は多くの職場で既に起こっています。ところが、多様性をうまくマネジメントできている職場はまだ少ないのではないでしょうか。障がい者雇用に取り組み、一人ひとりの可能性を引き出し戦力化することにより、多様性の持つ可能性を引き出す柔軟なマネジメント力がついていくと考えています。障がい者雇用の先進的な取り組みから多様性マネジメント力をつけたいと、親会社の管理職の当社への見学などの活用も始まっています。障がい者雇用を単にコストとしてネガティブにとらえるのでなく、多様性への対応力をつける大きな機会としてとらえることが可能ではないかと考えています。

ありがとうございます。 具体的にどのような点が、会社としてよりよくなったのかお聞かせください。

社内での業務において、目的や意義をすごく重視しています。理由は、内発的動機付けやエンゲージメントにつながるからです。
上層部から降りてきた依頼業務をそのままお願いするなど、意図・目的を伝えないケースも一般的に見られますが、私たちはそのようにならないよう留意しています。依頼窓口で業務をお願いされたときは、意図・目的を必ず聞くようにしています。そのことで期待に沿うことはもちろん、期待以上の結果を目指せるからです。意図・目的を答えられない場合には、特例子会社側から必ず確認を行い、意図・目的を添えて業務を依頼してもらうことを心がけています。

最後に、今後の展望や目指している未来があれば教えて下さい。

会社である以上、利益を出していきたいと思ってます。親会社への貢献だけでなく、広く社会に貢献していきたい気持ちも大きいですね。会社を継続して発展させていくためには利益が必要になりますし、親会社が調子悪いときでも、彼らの給料が上がる状況が成り立つなと思っていて。でもそれ以上に大きいのは、うちが利益を出すことで、彼らが自信を持ってくれることだと思います。

そうすると、特例に限らず障がい者雇用に取り組んでいる、これから取り組もうとする企業に、うちの事例が注目をされるだろうなと。また、社会全体で障がいのある方が十分戦力になるんだということも伝わっていきます。問題点ばかり見ていったら、彼らの良いところは伝わりません。良いところをしっかり伸ばしてあげれば活躍できるよと。

雑草を全部取ってから花を植えようとしてはダメなんです。雑草は気になるかも知れないけど、先にいっぱい花を植えちゃえば雑草は気にならなくなります。花の力で雑草が段々無くなってくるので、そういう形にもっていきたいです。で、そのためには利益をだして注目を浴びて、説得力をつける。そうすれば他の企業も真似をしてくれると思います。

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