1人1台の机とパソコンで、安心できる場所を作る

1人1台の机とパソコンで、安心できる場所を作る

富士ソフト株式会社の特例子会社として、今年で特例子会社設立32周年を迎えます。「自立と貢献」「生涯働ける会社」として「障がい者一人一人の個性を尊重し、仕事を通じて学び成長し、仕事を通じて社会に貢献し、生涯働ける会社を築き上げる」ことを経営理念に掲げている富士ソフト企画株式会社。今回は、障がい者雇用の採用を担当している遠田さんと実際に現場で勤務されている長濱さんにインタビューしました。

遠田さん

大学にて臨床心理学を専攻。在学中より自衛隊中央病院にてカウンセリングの見習い。
外来・病棟・摂食障がい・肥満治療・アルコール依存症などのチーム医療にも携わる。
その後、教員採用試験・教頭・校長試験対策の会社に勤務。全国の国立大学等で試験対策等の企画運営。商社勤務を経て2008年に富士ソフト企画株式会社に入社。現在企画開発部長・陸上自衛隊予備自衛官。

長濱さん

幼い頃から夢だった力士になる為、中学卒業後に高田川部屋に入門。18歳の時に幕下に昇進したが、21歳の時に血栓性静脈炎を発症しそのまま引退。家業である塗装業に27年従事していたが、48歳の時に脳梗塞を発症し、左半身不随と高次脳機能障害が残った。その後、就労準備プログラムや委託訓練に参加し、2016年に富士ソフト企画株式会社へ入社し、2年後にリーダー職、今ではオフィス長を務める。

障がい者雇用をはじめたきっかけを教えて下さい。

平成3年に親会社の社員が交通事故に遭ってしまい、脊髄損傷のため、車いすで生活することになりました。会社に復帰し、一生懸命開発の仕事をしていた光景が社長の目に止まり、「車椅子の方も、パソコン使いひとつで健常者の方と同じ土俵で戦える」と。

当時の障がい者の方の仕事内容は、「工場」や「リサイクル」といった、いわゆる健常者目線で障がい者の職域を制限していた時代でした。それを打開していきたい思いも強く、雇用に力を入れる運びとなりました。

たとえ手足が不自由でも、心に病気を持っていても、パソコンを使用することができれば、仕事はできます。これを機に、障がい者の方が安心して、仕事が出来る場所を提供したいと思い、1人1台のパソコンを会社で用意した上で特例子会社を立ち上げたのがきっかけです。

知的障がい者を採用したきっかけについて教えて下さい。

現在の社員数は、身体障がい者47名、精神障がい者170名、知的障がい者36名、健常者が29名、合計282名となり、障がい者の割合が9割です。

知的障がい者の方を採用するきっかけとなったのは、彼らの隠れた才能や能力に気づいたからです。知的障がい者の方は、記憶力が良く、正確性も兼ね備えているので、データ入力などの作業がとても早くて優秀です。データ入力やテープ起こしの業務はすごく早くて感心しています。

雇用方針について、決めていることはありますか?

 

1人1台の机とパソコンを用意し、会社に居場所を作ることです。他の企業では、「フリーアドレス」であったり「その日の仕事によって場所が変わる」「パソコンは皆で使い回す」といった取り組みをされていますが、弊社では行っていません。必ず会社に居場所を作ることは、スタッフの出勤意欲を高めます。家庭での居場所がないといった方も多いので、会社は安心できる場所であることを示すためにも、パソコンとデスクは固定し、動かさないようにしています。

業務の切り出しはどのようにはじめましたか?

 

親会社の業務だけでも、2000種類くらいの業務が存在します。とはいえ、はじめは業務の確保に苦戦したそうです。雇用をはじめた頃は、仕事が全くないことに加え、障がい者スタッフを管理する社員がいなかったこともあり、出勤してもビルの一角に座っていたそうです。その様子を親会社の社員が発見し、「今日はこの仕事を手伝ってほしい」や「この書類をデータ化してほしい」と声をかけてくれたらしいんですね。そこからスタッフも、「なにか他にやることないですか」と館内を回るようになり、どんどん仕事が増えていきました。自分たちの仕事と居場所は、自分たちで作る文化が雇用当初からあったからこそ、今のような形ができたと思ってます。

 

 

雇用当初の問題点などがあれば教えて下さい。

 

当時印象的だったのが、アスペルガーの方に聴覚障がいの方を3名同じグループにしたときがありました。聴覚障がいの職員は、ろうあ者のため音が聞き取れず、アスペルガーの方は相手の感情や言動を読み取るのが苦手な特性から、お互いに理解しづらい、相手同士です。なかなかうまく行かず、アスペルガーの方が不安定になり、問題が起こるたびに私のところに電話がかかってくるようになりました。

あるとき、ウェブサービスチームに所属しているアスペルガーの方が、電話の鳴っている部屋に入っていきました。聴覚障がいの3名は聞こえないので、誰も電話に出ません。そのときに、「この人達は電話に出れないんだ」と初めて気が付いたそうです。それから、自主的に電話を取るようになり、社内チャットを駆使して、聴覚障がいの方に仕事を回すようになりました。それを機にお互いの精神的にも安定し、働き方も劇的に変化しました。

障がい者同士でも、お互いの障がいについて知ることは大事なことだと、私自身も大きな気付きを得ましたし、誰かに教えてもらうだけでは得るものは少なく、自分で気がつくことは大きいと思いました。

実際に運用してみたけど、あまり効果がなかった施策はありますか?

 

カウンセリング室の設置です。カウンセリング室を作ったものの、大きな問題はカウンセラーにお願いするフローが出来てしまい、現場で考える力がなくなってしまいました。

打開策として、「カウンセリング室」から「ジョブサポート窓口」に切り替え、ジョブサポーターの中に当事者をいれる形を取りました。相手が健常者のカウンセラーでは、言いたい放題・ぶつけ放題になってしまい、収集がつかなくなってしまうことが多々あったので、カウンセラーを同じ障がい者にしました。

そうすることで、いざ相談をしようとなったとき、「自分で少し考えてみよう」や「もう少しやってみよう」と、自制心を抑えられます。これは彼らにとっても、今後仕事をしていく上で大事なスキルになるのかなと。そこで自助力が育ち、会社としても大きくなったと思っています。

 

応募者を集めるコツはありますか?

 

一つの職種だけではなかなか応募が集まらないと思っています。色々な職種で求人を出し、幅広い人にマッチするように掲載することがポイントです。
弊社では、パソコンを使用できる方の募集を大前提としていますが、自身の作品を持ってきてくれる方もいて、非常に助かっています。

過去の経歴や年齢については、あまり問いません。様々な人を即戦力として採用したいと思っているので、中途採用も多く、50代の方を採用することもあります。採用したヘルスキーパー1代目の女性は、58歳で入社されましたが、これまでの経験や知識面含め、我々も勉強になり、非常に助かっています。年配の障がい者の方は、中途障がいの方も多いので、健常者として歩んできた道もあり、両者の視点から見てくれることもあります。なにより、ご年配の方の力は、非常に大きいです。

長濱さんが富士ソフトで働こうと思った決め手を教えて下さい。

 

仕事の種類が豊富なことです。私はいままで塗装の仕事にしか就いたことがなく、パソコンにも触れてきませんでした。ましてや片端左半身不随で、高次脳機能障害のため仕事探しにはとても苦労をしていました。富士ソフトでの面談で、「僕でもできるような仕事ありますか」と聞いたら「たくさんあるよ」とたくさんの仕事を紹介してくれて、ここであれば僕でも長く働けるなと思い、申し込みました。

雇用してよかったこと、今後の展望について教えて下さい。

 

いろいろな人に生きる喜びを取り戻してもらえていることです。加えて、就労は障がいを軽減するという言葉が間違っていなかったことです。それは、スタッフたちが体現してくれています。薬の服用だけでは、精神疾患が治るわけではありません。薬を服用し、社会に参画することで社会復帰が叶います。

世の中に出てお給料をもらうことは、働く喜びを知ってもらうためにも、ぜひ行っていただきたいです。また、ひとりでも多くの方が世界的に、様々な業種で活躍するためにも、障がい者スタッフの活躍の様子を発信していきたいです。

ワークリアとは

ワークリアは、障がい者専門の人材紹介サービスと障がい者雇用にまつわるコンサルティングサービスを運営しております。
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