第三者機関と連携、コミュニケーション経路の確立で精神障がい者雇用の課題を解決

第三者機関と連携、コミュニケーション経路の確立で精神障がい者雇用の課題を解決

2012年に障がい者雇用を開始し、2020年には特例子会社として株式会社ビースタイル チャレンジを設立。障がいを持つ社員一人ひとりが強みを活かしてキャリアアップできる環境を目指し、沖縄と東京の2拠点で制度設計などに取り組んでいます。今回は、障がい者雇用の統括を担う伊藤さんに、東京事務所での取り組みを中心にインタビューしました。

伊藤さん

学生時代から行っていたボランティア活動を通して、様々なハンディキャップを持った方を支援できる人材になりたい、という想いから、障害者雇用に興味を持つ。ビースタイルの企業理念に惹かれ2020年4月に入社。新卒配属では、人材派遣・人材紹介事業を行うビースタイルスマートキャリアにてコーディネーター職に従事。2021年7月から特例子会社であるビースタイルチャレンジに転籍し、現在は東京と沖縄の事業所の統括を務める。

障がい者雇用を開始した経緯を教えて下さい。

正直なところ、最初は法定雇用率を満たすために障がい者雇用を始めました。グループで派遣事業をしているのですが、派遣スタッフとして就業している方も従業員数としてカウントされるため、雇用する必要のある障がい者数がかなり多くなっていました。障がい者雇用を始めた初年度の時点ですでに17名ほど採用する必要がありました。

どのような方針で雇用を進めていったのでしょうか。

まず採用に関しては、精神障がい、かつ就業経験がある方という要件で、ハローワークから紹介してもらっていました。当時は会社全体がどんどん人員を増やして事業拡大に向けて動いていた時期だったので、障がい者スタッフを雇用してから教育をするための人的リソースがなく、就業経験の有無を重要視していました。また、当時のオフィス環境が身体障がいの方を受け入れられるような設計ではなかったため、採用の対象は精神障がいの方に自然と限定されていきました。

はじめはどの部署でどのような業務を担っていたのでしょうか。

バックオフィスの業務を担当している部署への配属という形でスタートしました。当時、会社全体の業務改革の一環として、ルーティン業務やあまり複雑な判断を必要としない業務を切り出すことを考えていたので、その一部を障がい者の方にも担っていただけるんじゃないかということで、その部署への配属になりました。
具体的な業務内容としては、派遣スタッフの契約書や請求書などの書類作成や、入社書類の印刷などの業務をお願いしていました。

雇用するうえで苦労したことはありますか?

稼働率を担保することですね。東京事務所のスタッフは全員が精神障がいをお持ちの方です。そのためどうしても勤怠に波がでてしまい、業務量の調整が難しいことがありました。それに加えて、スタッフの勤怠が安定していないと納期がある業務は任されにくく、こちらから業務の切り出しを依頼するものの「勤怠が安定してからお願いします」と戻されることもありました。

※稼働率=実際の受託業務時間 ÷ 勤務予定時間(事前承認済みの休みを除く)

勤怠の安定とそれに伴う業務量の調整が課題だったんですね。稼働率安定のためにどんな取り組みをされましたか?

勤怠を改善しないとどうしても業務量を増やすことができないので、まずは障がい者スタッフの勤怠安定に取り組みました。そのためにやったことは、スタッフ全員に就労移行支援をつけることです。以前はそのような決まりは設けておらず、何かあった場合はすべて社内でフォローをしていました。第三者機関にサポートしてもらうことで、社内でそこまでフォローに時間を割かなくても安定して就業できるようになっていったと感じます。

支援機関によるサポートとして、3種類の面談を必要に応じて依頼しています。基本的には月1回の定着面談で三者間の認識をすり合わせていますが、障がいの症状が悪化した際等は、追加の三者面談や支援方針決め面談を行っています。

入社後2週間以内に行っている支援方針を決める面談は、支援機関と会社間での責任範囲や役割を明確にして円滑なサポートを提供することを目的にしています。そのため、面談内では、スタッフ自身が求める支援内容についてのヒアリングをするだけではなく、会社からも就業する上での考え方として「会社に所属する社員全員の安心安全を守る責任があるため、時として個人の意見と反する決断をすることもある」というような話をしたりして、お互いの認識のすり合わせを行っています。

また、面談の他にも、障がい者スタッフへの伝え方の相談をすることもあります。やはり繊細なコミュニケーションが必要な方も多いので、「こういう発言がご本人様からあって、会社としてはこういう風に回答しようと思っているのですが、専門的な立場からこういう伝えた方をした方がいいというアドバイスはありますか」という風に事前に相談をしていたりします。

 

切り出し業務を増やすために行ったことはありますか?

業務を切り出してもらうための社内営業をする際に、障がい者スタッフのスキルシートを作成しました。スキルシートには、実際の業務レベルや勤怠面についての課題、障がい特性上の配慮が必要な点などを記載しています。そのスキルシートを元に、月に1度のミーティングでこういう方がいるのですが何か業務ありますか、と営業活動をして徐々に切り出し業務を増やしていきました。

このような取り組みの結果、2年前は稼働率が30%程だったのが、現在は75%程まで安定させることができています。差し込み業務に対応するために稼働率は80%以下で抑える方針のため、ほぼ目標通りの数値になっています。

東京事務所では雇用している100%が精神障がいのスタッフですが、面接時はどういう部分をみていますか?

勤怠面とコミュニケーション面ですね。勤怠は、実際にどれくらい安定しているかをご本人にお聞きし、また、就労移行支援の方にも確認します。コミュニケーション面は、報告・連絡・相談ができるかを確認しています。業務のスキルはある程度柔軟に対応できるので、そこまで重視していません。

コミュニケーション面で苦労した点はありますか?

業務の依頼元や障がいを持つスタッフ同士でもコミュニケーションを取ることがありますが、体調が優れないときなどにネガティブに捉えてしまうと、意思疎通がスムーズにいかないこともあります。

以前にあったのは、指示系統の部分でのいざこざですね。私がバタバタしていて、あるスタッフからでた業務の質問に対してすぐに回答できないことがありました。その際に、誰に指示を仰ぐかでスタッフ同士の認識にずれが生じてしまい、混乱してしまう場面がありました。そこからは、メンバー間で指示をし合うことは基本的にせず、私からの返事を待つ間は他の業務をするというルールにしていて、現在はそのようないざこざは起きていません。

このようなコミュニケーション面のすれ違いが起きた際は、就労移行の支援員や社内の人事本部長に入ってもらって、みんなで面談をしています。私からの言葉だけだと、どうしてもフィルターがかかってしまって聞き入れてもらえないこともあるので、協力を依頼して他の方から伝えてもらうようにしています。

障がい者雇用をしてよかった点はありますか?

よかった点は3つあります。1つ目は、社外への影響についてですね。沖縄の事務所で障がい者スタッフが雑貨の制作をしていて、それを来社されるお客様にお渡ししています。それが話題のきっかけになったり、会社の事業への理解を深めてもらえたり興味を持ってもらえたりすることが増えたようで、感謝の言葉をいただけるとやりがいに繋がります。

2つ目は、社内の多様性を広げられていることです。東京事務所では精神障がいのスタッフのみが働いているので、見た目で障がい者だなって分かることはないんです。ただ、業務でのやり取りを通じて私から説明をしたときに、あぁそうだったのね、じゃあこうするね、という形で受け入れてくださっていて、そういう風に社内で多様性を広げられていることはいい点だと思います。

3つ目は、マニュアル作成についてです。これも私たちが請け負うことがあるのですが、作成したものをそのまま各社の健常者の方が使う共有マニュアルにしてくださることもあるんですね。誰もが見て分かるマニュアルを作る、というマニュアル作成の質を上げることができているのはよかったと思います。

最後に、今後の展望について教えてください。

どんな障がいを持っている方でも、自分の強みを活かしてキャリアアップできたり、自分自身の人生がより豊かになると感じてもらえたりするような会社作りをしていきたいと考えています。それに向けて、今年の4月から評価制度を導入しました。これでより具体的にキャリアアップを支援できる制度や体制を作れたかなと思います。あとは、障がい特性に合わせた業務の切り出しにより力をいれていきたいです。現時点でもエンジニアとしてシステム構築の業務をしてくれている障がい者スタッフがいるのですが、そういう方を増やし、スキルアップにつながる業務をお任せできるようになったらいいなと思います。

 

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