高い定着率で支援機関との信頼関係を構築

高い定着率で支援機関との信頼関係を構築

株式会社ウィルグループの特例子会社として2021年に設立し、200名を超える障がい者社員を雇用する株式会社ウィルオブ・チャレンジ。雇用開始からわずか4年で雇用数を20倍に拡大させ、仕事を通じて多くの障がい者の可能性を広げています。今回は、マネージャーの藤代さん、新宿センター管理者の渡邉さんにインタビューしました。

藤代さん

2010年にアルバイト事務として入社。営業部門、教育部門、管理部門と様々な経験を経て、障がい者雇用チームの立ち上げメンバーとして、新宿センターの立ち上げを行う。
現在は、新宿と茨城エリア、総務チームを管轄。
安心して働けて、1人1人の強みを生かせる会社を社員一丸となって作っていきたいと考えている。

渡邉さん

前職も人材業界。ウィルグループの多様性、成長性に惹かれて2019年入社。
営業部として仕事をしている中で、社内公募制度で障がい者雇用の取り組みを知り、
現在の管理部へ異動。新宿センターにて現在110名の社員と業務にあたっている。

障がい者雇用をどのように始めたのでしょうか。

2019年頃から本腰を入れて雇用を始めました。ウィルグループが人材派遣事業を行っているため、法定雇用率に対して障がい者の雇用人数が少なかったことが障がい者雇用を開始した理由のひとつです。それと同時に、障がい者の方が活躍できる場を増やしていきたいということも目的に設定して始めました。

当時は管理部にいた3名体制で始めたのですが、全員障がい者雇用に関する知識はありませんでした。本やネットで雇用に関する情報や知識を得ることはできますが、やはり文章や周りの話だけでは知り得ない部分があると感じたため、まずは採用から取り組んでいきました。

どのように採用を進めていったのかを教えてください。

当時の担当は誰も障がい者雇用に詳しくなかったため、ネットで調べて出てきた就労移行支援事業所にひたすら電話をかけて訪問していました。そこで障がい者雇用を推進していくことを伝え、応募者の方に呼びかけていきました。

ただ、すぐに採用が進んだわけではありません。当初は障がい者雇用を始めたばかりということもあり、「フォローアップしきれない部分もあるかも知れないけど、会社を一緒に作ってくれる、チームを一緒に作ってくれる人と働きたい」というメッセージをずっと伝えていたので、それに対してやはり安心しきれなかった部分もあったようです。

その中で採用が上手くいき始めたのはなぜでしょうか。

就労移行支援事業所に足繁く通うことで関係性を構築できたのと、初期入社の方々の定着率が高かったことが大きかったと思います。センターを立ち上げてから2020年12月までに50名の方が入社してくれたのですが、1年後の定着率は90%でした。立ち上げ初期の頃は、入社後2週間、毎日夕方に振り返り面談を行っていました。面談終了後は日報の提出をお願いし、提出された日報に手書きのコメントを必ずつけ翌日に返却していました。このように、1人1人とのコミュニケーションを大切に考えることと、日々の積み重ねが定着率の数値に現れていると思います。

当時一緒に立ち上げをした同僚も含め、障がい者だけのチームをまとめるのは初めてだったので、社員が何に対して困り、不安になるのか、どうしたらみんなに理解を深めてもらえるのか、安心して働ける環境を作れるのか、仕事を円滑に行うためには何をしたらいいのか…と、日々話し合いを重ねて向き合っていました。

その結果、高い定着率となったことで就労移行支援事業所からも評価をいただけて、募集をかけると応募者が集まるようになったり、会社説明会も開催させていただくなど、会社を知ってもらう機会が増えました。

それに加え、社内でも時給の見直しを行い、障がい者雇用の給与水準より高い額を提示できるようになったことも応募者が増えた要因だと思います。これはもともと会社にあった障がい者手当(障害者手帳を持っている方に対する手当)を時給に反映させることで実現しました。立ち上げ時期は10〜20名くらいのスタートでしたが、4年間で200名規模まで雇用が拡大しています。

採用規模が拡大するにあたって、採用方針の変更はありましたか?

2021年の夏頃まではとにかく採用するという方針だったのですが、毎月5名ずつくらいコンスタントに採用ができるようになってからは、コンプライアンスを遵守できることや素直さ、自己理解をしっかりできているかという人間性の部分を採用基準として定めていきました。やはり管理部門の業務を担うため、コンプライアンスに関しては教育するのももちろんですが、採用時にも基準を設けるようにしました。面接時の見極めについてはフィーリングの話になってしまうのですが、一生懸命自分と向き合って答えを出してくれているかどうかで結構差が出てくると感じています。「自身の障がいについてあなたはどのように考えていますか?」「自分とは異なる特性を持つ方と接することで気になることはありますか?」という質問の返答により、自身と向き合えているかや他者に対する攻撃性を見ていました。

雇用開始後の課題はありましたか?

障がい者従業員とサポート側の社員の双方に対するサポートです。雇用当初は精神障がいの方が多く入社したのですが、それぞれの障がい特性に合わせてどういったサポートをすればいいのかを分かっていませんでした。また、サポート側の社員として立ち上げた3名以外にも様々な部署から異動してきたのですが、全員が障がい者雇用の知識を持っていなかったので、サポート側がメンタル不調を起こしたりハレーションが起きたりといった課題がありました。
 

 

どうやって課題を乗り越えていったのでしょうか。

障がい者従業員が増えるにつれて障がい者雇用の知識の必要性が増したので、サポート側の社員数名にジョブコーチの資格を取得してもらいました。そのうえで、この障がいに関してはこういう特性があるからこういうサポートをしよう、と反映させていきました。

さらに、立ち上げをした3名が障がい者従業員それぞれと10〜15分くらいの時間で毎日面談を行い、体調面の確認や業務面で不安がないかなどを確認していました。

雇用当初の業務の切り出しについて教えてください。

当初は、社内の業務かつ期日が短くないものや、判断に困らないものを選定して業務を振っていました。その中でも判断が難しいものに関しては、フォロワー(サポート側の社員)がついて判断するという形を取っていました。できるだけ負荷がかからないようにというのは心がけてやっていたつもりです。

業務量自体は困っておらず、もともと営業職の社員が対応している事務作業がたくさんあったため、それを請け負っているという感じです。ただ、やはり個人によってレベル感が違うので、依頼された業務を誰にどのように、どのくらい細かく切り分けていくか、というところが課題でした。

個人に合わせた業務振り分けは、どのように実現していったのでしょうか。

障がいの有無ではなくて、従業員それぞれの得意不得意を見て割り振っていました。苦手な業務があったらより細かく分けたり、他のサポートできる障がい者従業員から業務を回したりという風に工夫をして、常に業務の入れ替えをしながら進めていました。その際、自分たち管理側も実際に業務を行うことで、より適切な振り分けができていると思います。

雇用当初は私たち管理者側と一緒にやっていくという形だったので、同じ作業をしながら、どうしても引っかかってしまう部分や失敗してしまう部分を徐々に把握していきました。そこから業務の振り分けを何度も繰り返して、その人に合う業務を定着させていったという感じです。

雇用の規模が大きくなった今は、障がい者従業員のキャリアマップを軸において業務を割り振っています。将来その従業員がどうなりたいのか、どんな自己実現をしたいのかというのをしっかり面談でヒアリングして、高い目標を持っている方には、今よりもさらに専門性を高められる業務を切り出したりしています。逆に、今が精一杯だからこのまま頑張りたいという方には、日々ルーティン業務で大体一定の作業になるように切り出しをしています。

全従業員の約2割は完全在宅勤務をしていますが、どういうきっかけで始めたのでしょうか。

2022年の夏から在宅勤務を取り入れていて、現在は身体障がいの方メインで40名弱の従業員が完全在宅勤務をしています。法定雇用率のために雇用数を増やす必要があったというのも理由のひとつですが、障がいのある方のキャリア形成において、出社しなければ仕事ができないという状況を打破したいという思いもありました。そういった部分でチャンスを奪われている方に対し、完全在宅勤務制度を実現することでキャリア形成の場所を作っていきたいなという気持ちでした。

完全在宅勤務を実現するための工夫はありますか?

業務のマニュアルはこだわっていて、見るだけで業務ができるというレベルのマニュアルになっています。それでも理解が難しい等の要望があった際は、障がいの特性に応じて日本語のニュアンスを変えたり、文字が理解しづらい方には画像を付けたりという工夫もしていました。

また、就業の様子を管理するという点では、生産性を数字化できる業務を対応してもらうようにしています。作業にかかる平均時間が分かっているものを用意して、実際に何時間でどのくらいできたかを測っています。あまりにも基準に満たない場合は、面談を通じて状況を把握するようにしています。

セキュリティ面では、会社のリモートワークシステムにより、システムチームで誰がどの画面にアクセスしていたかが把握できるようになっているのと、業務で使用する画像やデータは会社のネットワーク外に持ち出せないようになっているので、問題なく行えています。

最後に、障がい者雇用をしてよかった点や今後の展望を教えてください。

よかった点は2つあります。ひとつは、社内の障がい者に対する見方がすごく変わってきているなと実感しています。実際に社内でやり取りする際に、障がい者、健常者の違いは見えないようになっているので、管理部にいる私たちの中で誰が障がいを持っているかというのは恐らく社内の誰も分からないと思います。そのくらい障がい者従業員も健常者と遜色のないレベルで仕事をこなしてくれているので、社内の意識を変えてきていることはすごくよかったなと思います。

もうひとつは、これまでのキャリアで中々チャンスを掴めなかった障がい者従業員がポジティブな目標を持ってくれているのも嬉しいですね。1年後こうなりたい、3年後こうなりたいというようなポジティブなきっかけを提供できているのはよかったところだと思います。

今後の展望としては、障がい特性が個性と呼ばれるような社会を目指し、そのリーディングカンパニーになりたいなと思っています。社内に向けては、障がい者従業員の正社員登用がまだできていないので実現させたいですね。社内の人事制度を整備して、本当の意味で全員にチャンスを与えられるような会社になっていけたらなと考えています。
 

 

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